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電話営業をやってみようか、と言われた日です。
それまでは、先輩の横で電話のやり取りを聞いたり、簡単な資料を作ったりすることが中心でした。
営業の仕事に少しずつ近づいている感覚はありましたが、まだ自分が前に出る場面はほとんどありませんでした。
だからこそ、その一言を聞いたとき、少しだけ緊張したのを覚えています。
「とりあえず、何件かかけてみようか」
先輩は軽い調子でそう言いました。
大げさな雰囲気でもなく、「やってみれば分かるよ」という感じでした。
頭では、「いつかはやるものだ」と分かっていたつもりでした。
営業職として入社した以上、電話営業を避けて通ることはできません。
でも、実際に自分がやる番になると、思っていた以上に緊張しました。
渡されたのは、会社のリストと、簡単なトークの例文でした。
「最初はこれ見ながらでいいから」
そう言われて席に戻ったものの、電話をかける手がなかなか動きませんでした。
受話器を持つ前に、一度深呼吸をしてみたり、トーク例を何度も読み返したり。
たぶん、周りから見たらすぐに分かるくらい、迷っていたと思います。
周りの先輩たちは、当たり前のように電話をかけています。
短い言葉で用件を伝えて、次の電話へ進む。
その姿を見ながら、「自分にもできるのかな」と考えていました。
意を決して、最初の番号に電話をかけました。
呼び出し音が鳴っている間、妙に時間が長く感じました。
心臓の音が、自分でも分かるくらい大きくなっていた気がします。
そして、相手が電話に出ました。
「あ、あの…お忙しいところ失礼します」
最初の一言が、思っていたよりもぎこちなくなってしまいました。
用意していた言葉を思い出しながら、なんとか話を続けようとするんですが、頭の中が少し真っ白になっていました。
相手の反応も、正直あまりよくありませんでした。
「今忙しいんで」
そう言われて、すぐに電話は終わりました。
たったそれだけのやり取りなのに、電話を切ったあと、どっと疲れた感じがしました。
横を見ると、先輩はいつも通り電話をかけ続けています。
特に気にしている様子もなく、淡々と次の番号に進んでいる。
その姿を見て、「みんな最初はこうだったのかな」と思いました。
2件目、3件目と電話をかけるうちに、少しずつ慣れてくる部分もありました。
でも、毎回、受話器を持つ瞬間には少し緊張しました。
断られることがほとんどでしたが、それでも先輩は「最初はそんなもんだよ」と言ってくれました。
「とりあえず、数をこなして慣れるのが一番だから」
そう言われて、少しだけ気持ちが楽になったのを覚えています。
ただ、電話をかけ続けているうちに、ふと思ったことがありました。
これを毎日やるんだな、と。
まだ数件しかかけていないのに、少しだけ疲れを感じていました。
相手の反応に気を使って、言葉を選んで、緊張しながら話す。
それを繰り返していく仕事なんだ、と、少しずつ実感してきました。
その日の帰り道、駅に向かいながら、頭の中で何度も今日の会話を思い出していました。
「あの言い方でよかったのかな」
「もう少し落ち着いて話せばよかったかな」
そんなことばかり考えていました。
まだ始まったばかりなのに、こんなに緊張するものなんだな、と少し驚いたのを覚えています。
でも同時に、「これが営業なんだな」と初めて実感した日でもありました。
先輩たちが当たり前のようにやっていたことの重さを、少しだけ自分の中で感じ始めた、そんな一日でした。
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