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みんな帰るタイミングを見計らっていた

夜のオフィスでデスクに座った若い社員が周囲を見渡し、他の社員もパソコン作業を続けながら互いの様子をうかがっているアニメ風イラスト。

AI生成によるイメージ画像

入社して少し経った頃から、なんとなく気づき始めたことがありました。

この会社では、「何時になったら帰る」というよりも、
「いつ帰っていいかを探っている」ような空気がある気がしたんです。

最初は、自分が新人だからそう感じるだけだと思っていました。
帰るタイミングが分からないのは当然だし、周りの様子を見ながら動くのも当たり前だろう、と。

でも、ある日の夕方、その感覚が少しはっきりした瞬間がありました。

その日は、特別忙しいわけでもなく、落ち着いた一日でした。
自分が任されていた作業もほとんど終わっていて、あとは軽く整理をするだけという状態でした。

ふと時計を見ると、定時を少し過ぎていました。

周りを見てみると、みんなまだ席に座って仕事をしています。
電話をしている人もいれば、パソコンに向かって資料を作っている人もいました。

ただ、よく見ると、みんな少しずつ時計を気にしているようにも見えました。

キーボードを打つ手を止めて、ちらっと壁の時計を見る人。
一度伸びをしてから、また画面に向き直る人。

そんな小さな動きが、なんとなく目につきました。

しばらくして、一人の先輩が静かに席を立ちました。
周りに大きく声をかけるわけでもなく、コートを取りに行って、戻ってきて、パソコンの電源を落とします。

「お先に失礼します」

控えめな声でそう言って、フロアを出ていきました。

その様子を見ていたのか、少しして別の先輩も席を立ちました。
その人も同じように、周りの空気を壊さないような静かな動きで帰り支度を始めます。

それを見て、自分は初めて思いました。

みんな、帰るタイミングを見てるんだな、と。

誰かが「もう帰ろう」と言うわけでもない。
定時だからといって、一斉に席を立つわけでもない。

でも、最初に帰る人が出ると、少しずつ空気が緩んでいくような感じがありました。

一人、また一人と、静かに席を立っていく。

その流れを見てから、自分も帰る準備を始める。
そんな空気が、なんとなくできていました。

まだ新人だった自分は、その流れに乗ることしかできませんでした。

「もう帰っていいのかな」と思っても、自分からはなかなか動けない。
誰かが帰り始めるのを見てから、やっと「じゃあ自分も」と動く。

そんな日が何度もありました。

ある日、たまたま自分が少し早く作業を終えて、手持ち無沙汰になったことがありました。

定時を少し過ぎたくらいで、やることもなく、でも周りはまだ仕事をしている。
帰るには少し早い気もするし、残る理由も特にない。

そんな微妙な時間でした。

なんとなく席に座ったまま、パソコンの画面を見ているふりをしながら、周りの様子をうかがっていました。

そのとき、斜め前の先輩と目が合いました。

先輩も、ちょうど時計を見たところだったみたいで、少し苦笑いをしながら、小さく肩をすくめました。

その仕草を見て、「あ、この人も帰るタイミングを考えてるんだ」と思いました。

それから少しして、その先輩が立ち上がり、「お先に失礼します」と言って帰っていきました。

それをきっかけに、他の人も少しずつ動き始めて、自分もその流れに合わせて帰ることにしました。

帰り道、なんとなくその光景を思い出していました。

この会社は、残業を強制されるような雰囲気ではない。
でも、「時間になったら帰ろう」という感じでもない。

誰かの動きをきっかけにして、少しずつ一日が終わっていく。

その空気の中で、みんなが少しずつ周りを見ながら、自分の帰るタイミングを決めている。
そんな印象でした。

自分も、気づけば同じように周りを見て、「そろそろいいかな」と考えるようになっていました。

まだ入社して間もない頃だったので、それが普通なのかどうかは分かりませんでした。

ただ、はっきりと感じていたのは、「帰る」という行動にも、なんとなく空気を読む瞬間があるんだな、ということでした。

その小さな気遣いの積み重ねが、この会社の静かな雰囲気を作っているのかもしれない、と、そんなことをぼんやり考えながら帰ったのを覚えています。

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この記事を書いた人

27歳の広告営業。
新規・既存営業を担当。
日々の仕事で感じたことを記録しています。

※プロフィール写真はイメージ画像です。

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