
AI生成によるイメージ画像
それは、突然鳴る電話の音です。
最初の頃は、電話が鳴るたびに、ほとんど反射のように体が反応していました。
誰が取るのか分からない一瞬の空気の中で、自然と背筋が伸びる。
「はい」と声を出す前の、ほんのわずかな緊張。
その一瞬の間に、頭の中が少しだけ忙しくなる感覚がありました。
それは、何度経験しても完全には消えませんでした。
普段、自分からかける電話には少しずつ慣れてきていました。
話す内容を準備して、相手の反応を想像して、
ある程度、心の準備をした状態で始められる。
言うこともある程度決まっているし、
最初の一言も、もう体が覚えている感じがする。
でも、かかってくる電話は違います。
どんな内容なのか分からない。
誰からなのかも、取るまで分からない。
どんな用件なのかも、その瞬間までは想像するしかない。
その一瞬の「分からなさ」が、少しだけ焦りを生むんです。
電話のベルが鳴る。
それだけのことなのに、なぜか一瞬だけ空気が張りつめる気がしました。
周りの誰かが取ると、すぐに元に戻る。
でも、自分の手が受話器に伸びたときは、頭の中が少しだけ速く動き出す。
名前を名乗って、用件を聞いて、
どこにつなげるべきかを判断する。
それ自体は、特別に難しいことではありません。
でも、間違えないように、失礼がないように、
相手を待たせないように。
そう思うほど、声のトーンや言葉の選び方を意識してしまう。
その意識が、少しだけ焦りにつながっていました。
ある日、電話が立て続けに鳴ったことがありました。
一本取って、内容を確認して、つないで、
席に戻ると、またすぐに鳴る。
その繰り返しが何度か続いたとき、
気づかないうちに少しだけ呼吸が浅くなっているのを感じました。
大きなトラブルがあるわけではありません。
怒られているわけでもないし、急かされているわけでもない。
ただ、対応するたびに、少しずつ気持ちが張っていく。
その感覚が、自分でも不思議でした。
周りの先輩たちは、電話が鳴っても落ち着いています。
手を止めて、静かに受話器を取って、
いつも通りの声で話し始める。
慌てる様子もなく、自然な流れで対応している。
その動きが、とても当たり前に見えて、
同時にすごいなと感じることもありました。
自分はまだ、電話の音に少しだけ反応してしまう。
鳴った瞬間に、「どんな内容だろう」と考えてしまう。
それだけで、ほんの一瞬だけ気持ちが前のめりになる。
営業先からの折り返しかもしれない。
何か確認の電話かもしれない。
クレームだったらどうしよう。
そんなことが、頭の中を一瞬でよぎるんです。
もちろん、実際は普通の問い合わせがほとんどです。
担当者を呼んでほしいとか、
資料についての確認とか、
日程の調整とか。
よくある内容ばかりです。
でも、取る前はそれが分からない。
その「分からない一瞬」が、少しだけ緊張を生むんだと思いました。
電話を切ったあと、
ふっと肩の力が抜ける瞬間もありました。
ちゃんと対応できたかな。
言葉遣いは大丈夫だったかな。
変な間はなかったかな。
そんなことを、ほんの少しだけ振り返る。
その時間も含めて、電話一本の重みを感じることがありました。
営業の仕事は、自分からかける電話だけじゃなくて、
かかってくる電話も大事なやり取りです。
その一つひとつが、次の仕事につながっていくこともある。
ちょっとした確認が、大きな話に変わることもある。
そう思うからこそ、
ベルの音に自然と反応してしまうのかもしれません。
慣れてきたとはいえ、
完全に気にならなくなるわけではない。
今でも、電話が鳴ると、ほんの一瞬だけ気持ちが引き締まる。
その短い時間の中で、
少し焦って、少し緊張して、
でもすぐに落ち着いて、受話器を取る。
その繰り返しが、毎日の中に何度もある。
気づけば、その一つひとつが、
営業としての時間の一部になっていました。
電話が鳴るだけで少し焦る。
そんな感覚も、
この仕事に向き合っている証拠なのかもしれないと、
少しずつ思うようになってきた頃の話です。
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