
AI生成によるイメージ画像
最初の頃は、とにかく自分のことで精一杯でした。
仕事を覚えること、先輩に迷惑をかけないようにすること、それだけで一日が終わっていく感じでした。
でも、少し余裕が出てくると、周りの様子が見えるようになってきます。
その頃、ふと気づいたことがありました。
自分の席の周りが、妙に静かだな、と感じた日があったんです。
その日は、特に忙しい日ではありませんでした。
電話の本数もそこまで多くなくて、外出している人も何人かいて、社内は少し落ち着いている時間帯でした。
自分はデスクで資料を整理していて、ふと手を止めて周りを見渡しました。
キーボードの音は聞こえます。
マウスを動かす小さな音も、時々聞こえてきます。
でも、人の声がほとんどしませんでした。
すぐ隣の席の先輩も、ずっと画面を見たまま黙々と作業をしています。
少し前までは電話をしていたようですが、それが終わってからは、ずっと静かでした。
反対側の席の人も同じで、誰かと話している様子はなく、ずっとパソコンに向かっている。
その光景を見て、「こんなに静かなものなんだな」と思いました。
もちろん、会話がまったくないわけではありません。
仕事の確認や、ちょっとしたやり取りはあります。
「このデータ使っていいですか」
「あとで確認お願いします」
そういう短いやり取りは、ところどころで聞こえてきます。
でも、それが終わると、またすぐに静けさが戻る。
誰かが雑談をしている声や、笑い声が聞こえてくることは、ほとんどありませんでした。
以前働いていたアルバイト先では、もう少し空気が柔らかかった気がします。
忙しいときは忙しいなりに、ちょっとした会話が自然に生まれていました。
でも、この会社では、仕事中は本当に静かでした。
最初は、その静けさが少し心地いいとも感じていました。
無駄な音が少なくて、集中しやすい。
それはそれで、働きやすい環境なのかもしれない、とも思いました。
ただ、その日感じた静けさは、少しだけ違いました。
ただ静かな、というよりも、どこか張りつめているような感じがあったんです。
誰かが何かを気にしているような、そんな空気でした。
理由は分かりませんでした。
誰かが怒られている様子もないし、大きな問題が起きているようにも見えません。
ただ、席の周りだけが、妙に静かに感じました。
自分も、その空気に引っ張られるように、余計な音を立てないように気をつけていました。
椅子を動かすときも、なるべく音を立てないように。
書類をめくるときも、そっと。
そんなことを、無意識に考えている自分がいました。
もしかしたら、まだ新人だったから、周りの空気に敏感になっていたのかもしれません。
ちょっとした沈黙でも、「何かあったのかな」と気にしてしまう。
そんな時期だった気がします。
しばらくして、外出していた先輩が戻ってきました。
ドアが開いて、足音が聞こえて、先輩が席に戻る。
その動きだけで、少し空気が動いたような気がしました。
「ただいま戻りました」
そう声をかけると、「おかえり」と小さく返事が返ってくる。
それだけで、ほんの少しだけ場が和らいだように感じました。
そのとき、「ああ、さっきまでの静けさって、こういうものなんだな」と思いました。
誰かがいないだけで、少し空気が止まったようになる。
そんな職場なんだと、なんとなく理解しました。
帰り道、その日のことを思い出していました。
静かなのは、悪いことではないと思います。
むしろ、みんなが集中して仕事をしている証拠なのかもしれません。
でも、その静けさが続くと、少しだけ緊張してしまう自分もいました。
何も起きていないのに、自然と背筋が伸びるような感覚。
それが、この会社の空気なのかもしれない、と感じ始めたのも、この頃だった気がします。
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